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硬いカシマコートの堅い話
二硫化モリブデン含浸アルマイト カシマコート

アルマイト皮膜は工業的には装飾や単なるアルミニウムの表面保護膜としてではなく、耐磨耗性材料として重要である。特に半硬質アルマイトや硬質アルマイトでは、非常に硬くて耐磨耗性が良いので工業部品の摺動部分に多用されている。このアルマイト皮膜を摺動材料としてみると、アブレーシブ磨耗に対してはその硬さを生かして非常に強い。一方、弱点としては一般に摩擦係数が大きく、それに摩擦条件によっては摩擦相手とのなじみ性が悪かったり、ひどい時にはかじりや焼き付きといった凝固磨耗をおこすことがある。このようなアルマイトに潤滑性を付与できればメリットは一層大きくなると考えて開発されたのが二硫化モリブデン含浸アルマイトである。

二硫化モリブデン含浸アルマイトはアルマイト皮膜の微細孔中に(径は100〜数100、数億個/)電気化学的方法により固体潤滑材である二硫化モリブデンを含浸したものである。したがってアルマイト皮膜と二硫化モリブデンの複合体であり、双方の長所を合わせた硬くて耐磨耗性はよく、かつ潤滑性をもったものになる。
用途は低い摩擦係数や円滑な摩擦運動、長期間にわたる耐磨耗性などが要求される摺動部品材料である。一般にアルマイト皮膜の微細孔の中に物質を含浸するのは難しく、特に固体物質を含浸することは、形状、大きさの点では難しい。われわれは、微細孔内で二硫化モリブデンを合成するにはどうのようにしたらよいかという観点から開発したもので、孔の奥から完全に侵食している。微細孔の底まで含浸できるということは、アルマイト皮膜が自体が磨耗して無くなるまで二硫化モリブデンの効果が発揮されることとなり、そのメリットは大きい。


1.二硫化モリブデン含浸アルマイトの製法
まずアルミニウムやアルミニウム合金製の品物を硫酸や蓚酸の電解浴中で1次電解して多孔質タイプのアルマイト皮膜を生成させる。
ついでモリブデンのチオ酸塩を主成分とする水溶液中で、アルマイト処理した品物を陽極にして二次電解をする。すると微細孔内にモリブデン硫化物が析出してきて微細孔内に固定される。
このモリブデン硫化物の析出過程は以下のように推定される。

[1] 2次電解液中ではモリブデンのチオ酸塩は解離してチオモリブデン酸イオン として存在する。
[2] このイオンは負に帯電しているために陽極に引き付けられて電気泳動あるいは拡散によって微細孔内に進入する。またこのイオンの大きさは微細孔よりはるかに小さいので孔の奥までも自由に行ける。
[3] このようにして微細孔内に進入したチオモリブデン酸イオンは、直接の電解反応あるいは微細孔内でおきるアルミニウムの陽極酸化反応により放出される水素イオンによる水素イオン濃度の変化のために電解してモリブデン硫化物として析出する。
以上のようにして析出したモリブデン硫化物を2次電解後に加熱処理するとグラファイト構造の結晶になる。



図1 モリブデン硫化物含浸アルマイトの断面方向のX線マイクロアナライザーによるMo,Alの分布状況
図2 2次電解時の電圧 ― 時間曲線アルミニウムの材質:1100,10℃硫酸アルマイト30 2次電解:0.5wt%  水溶液,直流定電流電解
図3 動摩擦力の経時変化
相手材:焼入鋼 ディスク回転速度25m/分
荷重 15kg/
表1 二硫化モリブデン含浸による摩擦係数の変化
摩擦相手
潤滑処理前
潤滑処理後
焼入鋼
0.64
0.23
硬鋼
0.66
0.30
真鍮
0.40
0.24
硬質クロムめっき
0.64
0.28
2次電解時のモリブデン硫化物の析出物の析出進行状態はX線マイクロアナライザーによる分析結果から判断すると、析出はまず微細孔底のバリヤー層界面から始まって電解時間の経過にしたがい微細孔入り口に向かって進行する。
そしてついには微細孔内を埋めつくす。なおさらに電解するとアルマイト皮膜表面に黒色の析出物が付着してくるのがわかる。図1にモリブデン硫化物が微細孔をほぼ満たした試料のX線マイクロアナライザーによる分析結果を示す。

図2に2次電解を直流定電流法で行った時の電圧1時間曲線を示す。電圧は時間の経過とともに直線的に上昇する。これは2次電解液が中性であるために2次電解時におきるアルミニウムの陽極酸化反応によってバリヤー層が成長するためである。このようにバリヤー層が成長して電圧が上昇しながら2次電解が進行するために、電解反応はバリヤー層の薄いところから準次進行する。したがって電着の均一性が非常によい。またバリヤー層が厚くなるために耐食性も非常によくなる。


2.潤滑性
二硫化モリブデンを含浸したアルマイト皮膜の潤滑特性を図3表1に示す。この試験はテーパー式磨耗試験機で各種材料のコロを試験片の上にのせ、試験片を回転させた時の摩擦力を測定したものである。摩擦力/荷重を動摩擦係数とした。試験結果によると各種金属材料に対して、潤滑化処理により動摩擦係数が1/2〜1/3に低減している。また試験後の試験片の表面状態は平滑でほとんどすきがなく、摩擦相手とのなじみ性がよいことがわかる。


3.用途
以上の特性のように二硫化モリブデン含浸アルマイトは潤滑性をいかした耐磨耗性材料として有望である。
実用性評価のために社内で電線製造ライン上に使っているプーリー、ローラー、コロ、各種ガイドを試作して検討した。その一例を紹介する。

ポリエチレンや塩化ビニルを被覆した細径の電線を貯線するために走らせながら横滑りさせるロールがある。このロールには低い摩擦係数による円滑な滑りと耐久性が要求されるが試作、試用結果、試用開始2年後も低い摩擦係数を持続して順調に稼動している。
なお比較試験を用いた硬質クロムめっきロールおよびアルマイト処理だけのロールでは摩擦係数が大きすぎて円滑に滑らず直ちに使用不能になった。また約200の厚さにテフロン樹皮をコーティングしたロールでは、初期特性は摩擦係数が非常に小さく良好であるが、使用中にテフロン樹皮層が減少して摩擦係数が増加する傾向がある。以上のほか、ガイド、プーリーなどではアルマイト処理だけのものと比較すると、耐磨耗性が向上して寿命が長くなっている。特に裸銅線用では潤滑処理面に銅粉が付着しにくいことなどが特長である。

このほか、カメラ部品の一部の摺動部への採用、自動車、電気産業をはじめとする各種工業部品への試用検討を展開中である。
以上のようにいくつかの社内実例によって二硫化モリブデン含浸アルマイトの実用性を実証している。


4.主な特長

(1) 摩擦係数が低くて硬度が高く、耐磨耗性がよい。
(2) 二硫化モリブデン含浸処理はむらがなく均一に処理できる。
(3) 膜厚はアルマイト皮膜の厚さできまるので寸法精度がよい。
(4) 電気絶縁性がよい。
(5) 耐食性がよい。
(6) 二硫化モリブデン含浸量や膜厚を調節することによって黄色、オレンジ色、茶色、チョコレート色、黒色に着色できる。
(7) 非粘着性である。
(8) 耐熱性にすぐれる。
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